さてさて、本日はクイズから入ります。

【問題】

あなたは、家電メーカーの生活商品分野の企画を考えています。
情報家電などに比べると白物家電は市場も技術も成熟しており、何か新たな旋風を起こしたいと感じていたあなたは、会社のトイレでハンドドライヤーに手を入れながら、ある商品のアイデアを思いつきました。

では、それは何のアイデアでしょう?

クイズと言いながら、正解は無いのですが、良いアイデア思いつきましたか?

例えば、

会社や商業施設では一般的なハンドドライヤーだが、一般家庭にはさほど普及していない。
価格を徹底的に抑えて売り出せば、もともと、衛生的で環境にもやさしいからヒットするはずだ…

いや、手だけを乾かすのはもったいない。
もっと風量を強くして、ユニットバスに組み込めるとホテルに導入して一瞬で身体を乾かすことはできないか…

ハンドドライヤーからヒントを得た「羽根のない扇風機」

日ごろハンドドライヤーを使うことはよくありますよね。
大量の紙を消費するより経済的で環境にもやさしいので、商業施設ではほぼ導入されています。

前項でクイズにした答えですが…

もうお分かりですよね?

ある企業のエンジニアは、自社のハンドドライヤーの狭い穴から勢いよく気流を吹き出す際に「周りの風を巻き込むことによって気流が増す」ことを発見しました。

つまり、小さい気流でも勢いをつけて周りの気流を巻き込むと、少ないモーターの力や電力で、大きな風を作ることができることに気づいたのです。

そして、これを扇風機に応用できないかと考えました。
これが後に、ダイソンの「羽根のない扇風機」の開発につながるのです。

7の力から100の成果を生み出すイノベーション

ダイソン羽根のない扇風機はムラのないスムーズな風を送り出すのです。
皆さんも体感したことがあると思います。
「エアマルチプライアー」といい、羽根がないだけでなく、先ほどの「狭い穴から強い気流を出すと周りの気流が加わって、より大きな気流を作り出す」仕組みを使っています。

具体的には、全体の気流を100%とすれば吹き出す気流はわずか7%で、残りの93%は周りの気流だそうです。
本来モーターを動かすのに必要な労力の7%で済むわけですから、電気代もお得です。

また通常の扇風機は、長い首の先に回転する羽根があるため、直立で安定するようにあえて重い台座を付けています。
その点、このエアマルチプライアーは重い台座も不要です。

ご存じのようにダイソンは、もともとは掃除機メーカーとして知られています。
その創業者であり、エンジニアでもある英国人のジェームズ・ダイソン氏が、紙パック交換の不要なサイクロン方式の掃除機を作ろうと思ったのがすべての始まりなのです。

そして、ダイソン氏は5年の歳月となんと5127台の試作品を経て、サイクロン方式の掃除機を完成します。

しかし欧州ではなかなか受け入れられず、実は日本のメーカーからサイクロン方式のライセンス料が手に入ったことで、ダイソンの設立が実現したそうです。

ダイソンの家電開発の原動力は「利用者の怒り」

そのジェームズ・ダイソン氏は、成熟化した家電領域の中でいつも新しい革新的な製品を提供できる原動力は「利用者の怒り」だといっています。

普段の生活の中で私たちが、うまくいかない事柄に対して、怒りを持つ。
そして、それを解決するのが製品開発の原動力だと考えているのです。

最初のサイクロン方式の掃除機も「紙パック交換が面倒だし、経済的でない」という不満から出発しています。

羽根のない扇風機が単にデザインの奇抜さだけでなく、市場に受け入れられたのも日常的な不満の解消があったからに違いありません。
扇風機はあまりにも長い間、技術革新が起こってきませんでした。

しかし、昔から「怒り」はあったはずですね。

例えば羽根が回ることで、子どもが手を入れたら危ないとか、羽根やそれを覆うカバーの部分の掃除が大変だとか。
あるいは、羽根を回すモーターが重いため、それとバランスを取る台座も重くせざるを得ない。
よって、単純な構造の割に重量が大きいのもネックでした。

ダイソンのエアマルチプライアーは、それらの不満を解消した画期的な製品となりました。
あなたがビジネスクリエイターであれば、こうした日常的な怒りを見逃さないようにしたいものです。

軍事技術がお掃除に生かされる時代

ルンバを製造する米国のアイロボットは、その名の通り、家電メーカーではなく、ロボットを作る企業です。
マサチューセッツ工科大学で最先端の人工知能を研究していた3人の科学者。

ロドニー・ブルックス氏、
ヘレン・グレイナー氏、
そして現CEOコリン・アングル氏が

1990年に設立したロボット専業メーカーなのです。

同社は「Dull(退屈)、Dirty(不衛生)、Dangerous(危険)な仕事から人々を解放する」理念のもとに、これまで多くのロボットを開発してきました。

例えば、軍事用ロボット。
人間に代わり、土の中に埋められた地雷を発見する爆弾処理ロボットを米国政府が大量購入したのが同社発展のきっかけとなりました。

ルンバの、ゴミの多さを分析するセンサーもこの軍事技術を掃除に応用したものです。

アイロボット社はそのほかにも、人命救助、海洋探査、ピラミッドの発掘調査など、米国の国家プロジェクトを始め世界中で活躍するロボットを開発しています。
1997年にはNASAの依頼で火星探査ロボットも設計して表彰されましたし、日本では東日本大震災にともなう福島第一原子力発電所の事故のときに、同社のロボットが使われたことがニュースで取り上げられました。

つまり、お掃除ロボットは、そうしたロボット技術、人工知能の「掃除への応用」だったわけです。

イノベーションを起こすのは、いつも「外から」

風をデザインするコアテクノロジーを持つダイソンと、ロボット工学をコアテクノロジーとするアイロボットが、掃除機という、何十年も続いた成熟産業でイノベーションを起こしていることは、大変興味深いです。
そして、このイノベーションに主要プレイヤーであるはずの家電メーカーが加わっていないのはなぜでしょうか? 

ここに、本エピソードのポイントがあります。

1つは、固定観念です。固定観念や常識が邪魔をすると、扇風機の羽根や掃除機の紙パックを排除したい、といった顧客の潜在的なニーズ、ダイソン氏のいう「怒り」を見落としてしまいます。

家電メーカーのように普段から製品に近いポジションにいるからこそ、近視眼的になり、根本的なニーズが見えづらくなっているのかもしれません。
素人目線の素朴な不満や怒りを再度、見直すことが重要でしょう。

もう1つは、常識破りのソリューションは異分野にヒントがあるということ。

ダイソンは、気流をデザインするテクノロジー、アイロボットはロボットや人工知能のテクノロジーのエキスパートです。
ソリューションは家電向けであっても、利用するテクノロジーは従来のものとは異なる分野での技術こそがイノベーションを生み出します。

ビジネスプロデュース力のヒント

  1. いったん、固定観念、業界慣習を捨てて、本来持っている利用者の「怒り」とは何かを考えてみる。
  2. その問題を解決する方法は、ほかの分野にないだろうか?

異業種、自然界など、普段あまり接点のない世界にヒントが転がっていないか、チェックしてみましょう。

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