コロナ期間が続いていることもあり、テレビCMの出稿量が減るのと比例して、私たちを夢中にさせたハズキルーペの新作をお目にかかれないことは、残念なことですが、あのCM。
1度見たら忘れられないインパクトがあり、流れていると、つい何度見ても見ちゃいますよね。
CM総合研究所の好感度ランキングで4135作品中、第1位を獲得(2018年10月度後期作品別)。
玄光社の雑誌『コマーシャル・フォト』の「クリエイターが選ぶ2018CMベスト10」では、第1位、第3位を獲得しています。
ハズキルーペCM名物「ヒップアタック」「だぁい好き♡」はインパクトが強すぎてトレンド用語に。
今のご時世、話題なれば良い悪いを飛ばして必ず炎上するもの。
セクシーなシーンもあり、味方を変えると下品にも映るのですが、ちまたに流れるCMのある表現方法を廃止した結果、好感を持つ人が増えたと言われています。
そのある表現方法とは…
トップ企業のアイデア
CMの表現を何にも例えないこと
一般的にCMはイメージを埋め込むために作りこまれたものが多くあります。
多くのクリエーターは、その商品を何かに例えて、イヤらしくなく、消費者に伝えようとしますが、過去の炎上広告というのは、大抵何かに例えて失敗しているのです。
例えば、鹿児島県志布志市の「うな子」。
美少女に水着を着せて「養って」と言わせています。
言わせる設定は、制作サイドの意図が出過ぎてこれが嫌われる理由。
壇蜜の「仙台・宮城観光キャンペーン推進協議会」
涼しいから来てくださいというのを「いっ、ちゃう」と唇をアップにしてどんなPRになるのだろう。
サントリーの「頂(いただき)」
出張先で飲むという設定ですが、挙げ句にキメ台詞が「コックゥ〜ん!しちゃった……」と下ネタの絶頂。
ハズキルーペの設定が舞台を意味するもの

「2人がステージに上がって訴える」という設定になっているハズキルーペ。
菊川のミニスカも「舞台衣装」。
これはどう選ぼうが本人次第。
そして、言葉も多少セクシーですが、何かに例えるどころかドストレートに表現。
「見えなーい」、「見えるー」、「さすがメードインジャパン」、「ブルーライトがカットされてる」、「長時間かけても目が楽」などなど、「商品特性」を読んでいるだけなのです。
これは、やっぱり舞台という設定にしたことによって、ハリウッドスターが舞台で表現、東大卒のセクシーなタレントがほほ笑みながらプレゼンということになっているのです、
セクハラが入り込む余地がないのです。
ハズキルーペのCMがうまいのは「ストレート。何にも例えない」。
渡辺謙発案のテーマは「怒り」

「世の中の文字は小さすぎる!」など怒りをテーマにしたCMは渡辺謙さんからのアイデアでした。
そこでクリエイターに「謙さんの怒りをテーマにしてほしい」とハズキルーペ側からの打診があったのですが、提案された企画に「怒り」が入ってなかったのです。
その企画を見た会長の怒りがマックスとなり、会長が自らが制作することになったのでした。
CMを作ったのはハズキルーペの会長

会長の松村氏は、渡辺謙&菊川怜が出演する新シリーズ第1弾から、総監督を務めていますが、実は、以前の石坂浩二、舘ひろし出演のCMは大手広告代理店が制作していました。
それは、松村氏の意向がCMに反映されなかったという。
役者に商品名言わせてと頼んでも「そんなCMはないですよ」と突っぱねられたという。
そこには、業界特有の「忖度」が依然として残っているため。
その結果、現在のCMはタレントのイメージCMばかりになっており、CMで有名タレントは覚えていても、何の商品を宣伝しているのか分からないものがほとんどなのです。
松村氏曰く
「CMは、タレントを見たらすぐに商品を連想できる内容でないと意味がない。有名タレントだけ覚えていて商品が浮かんでこないCMは、制作費を捨てるようなもの」と断言。
実体験を大切にしよう

ヒップアタックは松村氏の実体験からアイデアでした。
「ベッドで本を読んで寝た時、いつの間にか下敷きにして壊すことがよくあった。背中だと何とかなることもあるが、お尻だと全体重がかかり、壊れる。おそらくメガネ所有者は皆体験していると感じ、演出に取り入れた」という。
ハートマークで「ハズキルーペ、だ~い好き」の演出も松村氏の発案。
しかし、クリエーターにオーダーを出すと、それダサイと思い、実行に移すことは難しいですよね。
しかし、松村氏は、感情を揺さぶる演出論をこのように語っています。
機能など理屈だけで人は動かない。
人の脳は、理論を理解する部分と感情で判断する部分がある。
大好きや、すごいなどは一見、何の意味があるのかと思う視聴者もいるだろう。
だが主観的な言葉である大好き、すごいは、脳の感情で判断する部分に強く訴える言葉。
人に何かを判断、実行してもらうためには、脳の構造を理解した上で、人間の持つ脳の両方の機能に訴えかける必要がある。
このCMは、そういった部分を戦略的に考え抜いて制作しているのです。
動画をあれこれとこねくり回すよりは、感情を深堀氏、直感的に伝えるものが今後はトレンドになってくるのでしょうか。
ダサいことをあえてやる。
迷いがなく心にぐっと来るもの。
ここがポイントになりそうですね。

放送作家・演出家・地域戦略アドバイザー
1977年生まれ 熊本県天草市出身
株式会社ドーンマジック 代表取締役