『俺のシリーズ』のビジネスモデルは、高級食材をふんだんに使い、敢えてコストを高くした分を、お客の回転数(テーブルあたりの1日の顧客数)を高めて補うこと。
これは、ほとんどの人が知っているモデルで、この後、真似したお店が多数出現しましたよね。
でも、それは長くは続かなかった。
なぜか??
それは優秀な料理人を採用、雇用するのが難しいから。
俺のシリーズが大ヒットした要因として、ミシュランの星を取っているシェフを前面に立てる戦略をとりました。
ミラノやパリの三ツ星レストランで修業した有名シェフ、高級割烹の総料理長クラスをスカウトして、料理の質で負けない体制を作ったのです。
では、どうやってスカウトしたのでしょうか。

俺のシリーズでは、高級食材を使っていますよね。
それがキーポイント。
お客さんの満足度を上げることの他に、実はある理由から、高級食材を使用しているのですが、ではそれは…
トップ企業のアイデア

一流のシェフを引く抜くために
俺のフレンチでは、6割以上の原価率をキープしています。
それは一流シェフを引き抜くために、「好きな食材を好きなだけ使っていいよ」ということを謳い文句にしてスカウトしたのです。
シェフを動機付けながら、料理の品質を保ち、かつ高回転率であげる仕組み。
飲食は「真似だらけ」の業界です。
アイデア満載の店を作っても、すぐに誰かが真似をするため、いかに参入障壁を作るかが重要であります。
その参入障壁になるスーパーシェフを集められたのが成功のカギだったのです。
銀座でドミトナント展開した理由

「俺のシリーズ」は銀座8丁目を中心にドミナント出店しています。
それは、銀座という日本一舌の肥えたマーケットでドミナント展開ができれば、どこに出店しても成功できるだろうと考えたから。
また、ドミトナント出店で、各店舗の一流シェフがオリジナルメニューで競い合う環境をつくることで自社内競争を促進させ、ブランド力の強化を狙ったのです。
参入障壁を打ち破ったいきなりステーキ

「いきなりステーキ」のアイデアを思いついたとき、ペッパーフードの一瀬邦夫CEOは、「俺の株式会社」の坂本社長に電話を入れ、「俺の」の事業形態を真似することを伝えました。
そして、鍵になるスーパーシェフがいらない仕組みを作ったのです。
それが、ステーキ。肉を焼くのも技術は必要ですが、作業は焼くだけですよね。
今後どうする俺のシリーズ

立ち席から、着席に変更した俺のシリーズ。
以前のように、外まで行列というのはなくなりましたが、回転率は下がらずキープしているのです。
着席でも高い回転率を実現するため「2時間制」を導入。
実際には、席の入れ替えがあるため「1時間45分制」。
飲み放題の居酒屋で見られる「時間貸しのシステム」となっているため、立ち食いスタイルのときと回転率はほとんど変わっていませんのです。
しかし、売上は少しずつ鈍化しているのです。
2011年の1号店出店以降、数年で急激に伸びていますが、2015年には成長が鈍化。
出店当時の売上高は7.7億円でしたが、翌年は13.4億円と約1.7倍になり、さらに2013年には前年比約2.3倍の30.9億円、2014年には約2.4倍の74.2億円と大幅に成長。
しかし、2015年以降、その伸びに陰りが出てきました。
都心部でしか通用しないビジネスモデル

急成長した俺のですが、銀座におけるドミナント戦略も裏を返すと、銀座レベルの集客が見込める繁華街でなければ高回転率を維持できず、地方中小都市程度の繁華街ではそもそも出店が困難になります。
また、既存店の客離れも懸念。
開店当初は立食スタイルの2時間制で高回転率を追求していました。
これはもともと男性サラリーマンが集う新橋の立飲み居酒屋をイメージしたものでしたが、現在、全店舗で着席型の2時間制に転換し、女性客やカップル客へと客層の拡大を図っています。
やっぱりスーパーシェフの確保が課題

看板シェフの相次ぐ退社により、店のコンセプトでもある一流シェフの確保が課題になっています。
退社の詳しい理由は不明ですが、これまで勤めていた格式の高いレストランに比べて、回転率を重視するスタイルは格式が低いと感じてしまったのかもしれません。
いずれにせよ、一人前のシェフを育てるのに10年かかるとされる高級外食業界で、ネームバリューで集客できる話題性のある看板シェフを確保しないことには、新店舗を出すことはできません。
シェフが必要ない業態を模索中

俺のベーカリーがその代表。
味が最初に決まると、調理はほとんど必要なくなりますよね。
おまけに通販もお土産としても売れる。
ところが、高級食パンブームもそろそろ終焉を迎えようとしています。
今後、シェフを必要としないどの業態を狙っていくのでしょう。
あとがき

スカウトによる料理人確保はこの先なかなか難しいでしょう。
そのため、今後展開するには、新人シェフが必要です。
とはいえ、育つまで何年もかかりますよね。
お店が高回転なら、スタッフを高回転で回すと言う発想もありなのではないでしょうか。
例えば、一流シェフのなかには、すでに体力が衰え第一線に立つことが難しいという高齢シェフも多い。
経験豊富な一流シェフを新人シェフの先生役になってもらうのです。
それは1日3時間でも良いのではないでしょうか。
そのようになるとシェフの確保は安定するかもしれません。

放送作家・演出家・地域戦略アドバイザー
1977年生まれ 熊本県天草市出身
株式会社ドーンマジック 代表取締役